フリーランスエンジニアとエージェント会社間においてもマージン率という言葉が使われています。我が社はマージン率を抑えて可能な限りの報酬をエンジニアに還元しています。このエージェント会社はマージン率が低いから良心的。このエージェントはマージン率高いんだよな〜。みたいな使われ方ですね。
フリーランスエンジニアが締結することの多い準委任契約の場合はそもそもの概念が異なってくるわけですが、インターネットでフリーランスエンジニアのことについて調べていると、多くのブログで「エージェント会社における実際のマージン率」や「マージン率の仕組み」が記載されています。
これだけ情報があればフリーランスエンジニアとしては、エージェント会社が顧客からいただくお金の中から何%のマージンを抜いて自分に支払われているのか気になりますよね。業務の対価として得られる報酬が、マージン率によって異なって大きく変わってくるわけですから。
今回はフリーランスエンジニアにおけるマージン率についてお話しいたします。
フリーランスエンジニアのマージン率について
そもそもマージン率って何?
まずマージン率というのは、派遣事業を提供している派遣会社で使われる言葉で、派遣会社が派遣先企業(顧客)から受け取る「派遣料金」から、派遣社員として働く派遣スタッフに支払う金額を引き、派遣料金で割ったもの。
シンプルに言えばマージン率というのは、派遣会社がどれだけ粗利を抜いているかって率です。
派遣業界では平成24年の労働者派遣法の改正を受け、事業年度ごとにマージン率を公開する事が義務付けられるようになっています。
公開されたマージン率の中には、派遣会社の営業マンや事務・総務など社員の人件費、家賃、広告費、その他諸々の経費は含まれてないので、実際に会社が得られる営業利益とは異なります。そのマージンの中から様々な経費を支払って残ったものが営業利益となるわけです。
さて、派遣会社の場合、事業のミッションが派遣先企業で就業可能な派遣社員を探してきて派遣契約を締結する。そして派遣社員への指揮命令は派遣先企業が行いますから、派遣先企業から得た収益は純粋にその派遣社員の売上となり、マージン率の換算もとてもシンプルでわかりやすいです。
準委任契約におけるマージン率はそもそもどう考えるべきなのか
しかし準委任契約というのは就業先企業が指揮命令を行うのではなく、エージェント会社が指揮命令をおこなう契約形態です。その為、エージェントが顧客から得る料金には、顧客の要望を噛み砕いて就業するエンジニアに指揮命令・管理する実施責任者のコストも含まれます。
派遣の場合は、契約したものの「業務パフォーマンスが期待通り上がらない」、「業務が思うように進まない」という問題は、そのスタッフを提案した派遣会社の責任と合わせて、顧客側の指揮命令者の責任にもなるわけですが、準委任契約の場合は実際の指揮命令もエージェント会社が行いますので、パフォーマンスが上がらなければエージェント会社が会社としての責任を問われます。
と言いますか、本来であればそもそも顧客は作業者のパフォーマンスを見ることはありません。
準委任契約が可能なのは少なくとも2名以上が必要です。派遣のように個々のエンジニアの契約ではなく、エージェント会社が会社としてその案件を受けるかどうかを判断して締結するのが準委任契約です。
もちろん準委任契約では業務を遂行する事がミッションですから、請負契約のような成果物はとわれませんが、契約する以上は会社としての責任は問われます。契約する際に取り交わした計画通りに仕事が進まなければ、会社の信用度は下がり次から仕事を紹介してもらえる事がなくなるでしょう。派遣契約とは全く異なる責任の重さがあります。
顧客に対しての見積はどう出しているのか
準委任契約で顧客に営業していく際の見積の出し方として多いのが、契約する業務に対してのフェーズごとの人月換算での見積です。
4月 | 5月 | 6月 | 7月 | 8月 | 9月 | Total | |
フェーズ | 要件定義 | 基本設計 | 詳細設計 | 構築 | 移行 | テスト | |
人数 | 3名 | 3名 | 5名 | 5名 | 5名 | 5名 | 26人月 |
単価 | 120万 | 120万 | 120万 | 120万 | 120万 | 120万 | 120万 |
見積額 | 360万 | 360万 | 600万 | 600万 | 600万 | 600万 | 3,120万 |
このような感じで予算を確定させて、それに対して対応可能なエンジニアを集めて案件対応を行っていく流れになりますが、エンジニアのスキル能力も当然ばらつきがあります。
また、エージェント会社としては、プロジェクトを円滑に進めるための体制を保有しつつ、自社の若手を育てるミッションなども含まれてきますから、一概に120万円で5名と言ってもチーム内のスキルにバラツキは生じてきます。
仮に5名体制のチームを構築してプロジェクトを進めるのであれば以下のような感じになるのではないでしょうか。
リーダー 上流 |
上流 | 中堅 | 若手 | 若手 | 合計 | |
所属 | 正社員 | フリーランス | 外注A社 | 外注A社 | 正社員 | |
予算 | 120万 | 120万 | 120万 | 120万 | 120万 | 600万 |
原価 | 100万 | 90万 | 80万 | 60万 | 50万 | 380万 |
粗利 | 20万 | 30万 | 40万 | 60万 | 70万 | 220万 |
粗利率 マージン率 |
16.7% | 25.0% | 33.3% | 50% | 58.3% | 36.7% |
個々のエンジニア単位で見ると、若手社員は粗利率が50%以上もあり「俺搾取されすぎ!」と感じてしまうかもしれませんが、全体で見れば適正な利益となります。もちろんこの粗利の中から営業マンの人件費をはじめ会社の様々な経費を支払っていけば最終的な利益は数%程度でしょう。
また、この体制でプロジェクトが最後までスムーズに進めば良いですが、途中でエンジニアが抜けてしまえば交代要員を探す労力が発生する、エージェント側のミスで仕事に遅延が生じればそれを巻き返すなど、様々なコストが生じてきます。
準委任契約の場合は、一人のエンジニア単位での粗利率(マージン率)というよりもプロジェクト体制全体での利益率を考えるため、一般的な派遣のようなマージン率とは異なるのです。
そもそもそれはSIerの仕事でエージェントの仕事は違うのでは?
さて、ここまで読んできた方で、すでにフリーランスエンジニアとして現場常駐で働いている方、フリーランスエンジニアとして働くためにエージェント探しをされている方はきっと違和感を持ったでしょう。
こっちはエージェント会社のマージン率について話を聞きたいんだけど。
このような違和感を持つことは当然だと思います。
しかしエージェント会社が顧客と締結する契約は請負契約もしくは準委任契約です。それによってフリーランスエンジニアとも準委任契約を締結しているのですから。
請負契約でも準委任契約であっても、本来一人常駐というのは法的にNGです。(一人常駐がOKなのは顧客が指示命令をおこなえる派遣契約だけです)
マージン率を公開しているエージェント会社は、「我が社はマージン率を抑えてフリーランスに還元しています」といった感じでフリーランスに対して仕事を紹介する手数料ビジネスである事がミッションのような雰囲気を醸しています。
しかし契約的にはエージェント会社が顧客と締結する契約も、フリーランスと締結する契約もほとんどが準委任契約なのですから、本来はフリーランスを1人で現場に常駐させるのはNGな行為であるわけです。
何を伝えたいかと言いますと、フリーランスエンジニア向けのエージェント会社が一人当たりの「マージン率」を堂々とアピールしているのは、裏を返せば、
と堂々と言ってしまっているようなものです。
本来あり得ないのですがこれが実情であり、エージェントから仕事を紹介されたフリーランスエンジニアは、一人で客先で働いて顧客から業務指示を受けるケースが非常に多いです。
さらにはフリーランスも事業主の立場となりますから、フリーランスとエージェント間で準委任契約を締結するのであれば本来は実施責任者と作業者の2名以上が必須です。当然ですが一人親方であるフリーランスが2名以上で契約することはできません。
ということはエージェントとフリーランス間では準委任契約を締結することはできず、フリーランスが現場常駐できる法的に認められた契約は、派遣会社を通して契約する派遣契約だけです。ですから肩書きとしてはフリーランスではなく派遣社員です。
しかし、諸々のグレーゾーンの中で常駐フリーランスエンジニアという働き方が成り立っているのは事実で、私自身ここに物申す気持ちは一切ありません。国もNGと言いつつ全てを制限かけてしまったら業界が回らなくなるので目をつぶっているのでしょう。年に数件のエージェント会社を刺して行き過ぎないように圧力をかける程度で。
フリーランスエンジニアとして常駐で働く方は、このような契約の本質について理解した上で、自分自身のメリットデメリットを考えて働く事ができれば良いのではと思います。
まとめ
最後に改めて、マージン率をアピールしているエージェント会社さんに一言。