フリーランスエンジニアなら、発注者であるクライアントと、NDA(機密保持契約)を結ぶ機会はあると思います。
ところが、相手に提示された文章をよく読まずに署名する、なんてことをしていませんか?
実は、NDAは注意して締結しないと、思わぬ不利益を被ることがあるのです。
この記事では、フリーランスエンジニアに必要なNDAについての知識を解説します。
この記事を読んで、NDAに対する理解を深めましょう。
契約とは?
そもそも契約とは何なのでしょうか?
簡単に言うと、契約とは民法に定められたもので、当事者同士の意思表示による合意により、双方に何らかの義務や権利が生じるものです。
フリーランスエンジニアの場合、仕事をする代わりに報酬をいただく、そんな契約を毎回結ぶことになります。
契約は必ず書面で結ばなければならないものではありません。口頭で交わした約束であっても契約となります。
ネットのメッセージで交わした契約は立派な契約です。
NDAとは?
そんな契約の中で、最近締結する機会が増えてきたのがNDA(機密保持契約)です。
NDAとは、簡単に言うと、双方が知り得たお互いについての業務上の機密を他に漏らさない、という契約です。
ネットのサービスで署名する場合も多いですが、未だに、稀に書面に署名・捺印する場合もあります。
契約はどのような形態で交わしてもいいことから、形態は問われません。
スマホのスクリーンショットをNDAの代わりにすることもあります。
NDAを取り交わしたら、NDAに記載されている事項に関して、第三者に言ってはいけません。
極端な話、厳密には友達にも口外してはいけないのです。
ましてSNSに書いてはいけません。
あなたが口外した機密を用いて自分も利益を得ようとする人が出たら、それはNDA違反です。そのような事態を防ぐためにNDAは締結されるのですから。
もちろんNDAを結んでいなくても常識的な範囲で機密を口外しない責任はあります。
口外しないことを明文化し、口外しない対象を明確にし、また口外するとはどういうことかも明確にしたのがNDAです。
一旦NDAを結んだら、一生守る義務があります。
ですので、NDAは非常に重い契約になり得るのです。
「機密」の範囲
それでは、どういったものが機密とみなされるのか、その例を挙げていきます。
事業内容の機密
お互いの事業内容に関する機密を口外しない、という場合があります。
秘密で進められているプロジェクトに関わるときなどは、事業内容の機密はNDAの対象となります。
あなたがプロジェクトのことを口外することで、秘密が秘密でなくなったら大損害だからです。
技術の機密
技術の機密を範囲とするNDAは締結する場合が多いです。
あなたがそのプロジェクトに関わっているから知り得た技術情報(ログイン情報なども含みます)を他人に口外しないというNDAです。
またあなたを保護するために、あなたの技術についてクライアントが他のエンジニアに漏らさない、というNDAもあります。
技術的な機密情報は大事なもの、時にデリケートな取り扱いが必要となります。
開発内容の機密
事業内容の機密とも関わってきますが、そもそも、どんなことを開発しているのかに関しても機密情報とする場合もあります。
開発内容の機密がNDAの範囲になったら、あなたは、自分が取り組んでいる仕事について一切口外してはいけません。
こんなNDAに注意!
以上の話で、ずいぶんNDAとは重いものだな、という印象を持たれた方もいるかもしれません。
ですのでNDAを締結する際には、文面をよく読まないといけません。
その上で、機密の範囲についてよく話し合い、納得することが大切です。
そうは言っても、世の中には注意するべきNDAもあります。
そんな注意するべきNDAの中から例を3つ紹介します。
一方的なNDA
一方的に、フリーランスエンジニアがクライアントの機密を漏らさないというだけで、クライアントはエンジニアの機密について何も定めていないNDAも存在します。
これは注意するべきです。極端な話、あなたの個人情報が漏れてしまうかもしれません。
NDAはクライアントを守るためだけにあるのではなく、エンジニアを守るためにもあるのです。
筆者が以前クライアントから渡された資料で驚いたことがあります。
その会社の外注の氏名と電話番号とメールアドレスの一覧が書かれていたのです。
こんな個人情報の取り扱いをする会社も存在します。筆者に悪意が無かったので悪用しませんでしたが、悪意のある人に渡れば悪用は簡単です。
注意しましょう。
範囲の広いNDA
また、やたらと範囲の広いNDAも考えものです。
筆者は「プロジェクトの進行に関わる一切」を機密情報とするNDAを結んだことがあります。実際、そのプロジェクトはクライアントのプロジェクトの進行に多々問題があり、そのせいもあって開発初期で契約を解消したのですが、プロジェクトの進行について口外を封印されているために、どこにも書くことができませんでした。友人にも口外していません。
また事業内容と言っても、自分の関わっている会社がどの業界くらいかは話に上ることもあるでしょう。それすらも話題にすることが封印されると、けっこう日常生活を送るのに不自由するものです。
NDAを締結する際は、NDAの範囲に注意しましょう。
キャリアを縛るNDA
NDAに準じていますが、筆者は、勤務していて退職した会社から「業務を通じて知り得た技術を今後使用してはいけない」という誓約書を書かされたことがあります。
どの技術が「業務を通じて知り得た技術」なのかは境界があいまいではありますが、とにかく、トレンドが変化するまでの数年の間はビクビクして仕事をしていました。その会社でやっていた業務のコア技術はその後一度も携わっていません。コア技術は明確に「業務を通じて知り得た技術」だからです。
実は、この誓約書が筆者のキャリアに大きな影響を及ぼしています。未だに縛られているのです。
これは同業他社への技術の流出(先日携帯電話の会社で技術流出があったことを記憶している人も多いでしょう)を防ぐための契約ですが、乱用されるとキャリアを縛るものとなります。乱用される気配のある契約は結ばない方がいいでしょう。
「証拠」とは
次に、「証拠」について書きます。
契約の証拠は、書面でなくても、ネット上に残っているもの、メールなどでも証拠になります。
電話や直接の会話では言った言わないになり、何か起きた時に泥仕合になりますので、重要なことは文面で残しておきましょう。ネットで残す場合、保存期間に注意してください。
一方的な契約を締結されない為にすべきこと
筆者自身、これまでにさまざまなNDAを締結してきましたが、甲乙(発注者と受注者)が相互関係となるNDAを締結する様に心がけています。
NDA(機密保持契約)は、内容からしてお互いで守っていく決め事であって、受注者側だけが守るべき決め事ではないはずです
もしNDAに「乙は・・・」と一方向に受注者側だけが守るべき言い回しで記載されているのであれば、「甲及び乙は・・・」と書き換えてもらいましょう。
これを行うことで、「NDAにて縛ったルールは発注者側と受注者側、双方で守りましょうね」という相互関係での契約になります。
クライアントに契約書の内容を書き換えてもらう依頼をすることが不安なケースもありますが、契約書は対等に結ぶべきものですしNDAは両者が守って当然のことを記載するのですから、断られる筋合いはありません。
逆に断れてしまったらそのクライアントは、「あなたは機密を守ってもらうけど、私たちはあなたの機密を守る筋合いはありませんよ」といっている様なもの。前述した通りです。そんなクライアントとは付き合う必要ありませんね。
一方方向のNDAを渡されたら、ぜひ修正を依頼してみて下さい。
まとめ
この記事ではNDAについて書いてきました。
NDAは注意するべき契約です。その場の流れでなんとなく結ばないようにしましょう。