若い世代の方でフリーランスという働き方に憧れを持ち、未経験でもフリーランスという形態で働きたいという方が増えています。
フリーランスといえばプロフェッショナルなエンジニアというイメージがある中で、はたして「未経験でもフリーランスになれるのか?」という疑問はつきものですね。
先に私の見解をお伝えしますと、実務未経験の状態でフリーランスエンジニアとして働くことはお勧めできません。
未経験でもフリーランスとして働ける可能性はゼロではありませんが、もしフリーランスで働くことになったら、エンジニア本人にとって辛い立場に陥られることも多いでしょうし、契約先のクライアントにも迷惑をかけてしまうことがあります。
今回は実務未経験エンジニアがフリーランスに挑戦することの難しさと実態についてお伝えします。
未経験でもフリーランスエンジニアを目指せるのか?
エンジニアの需要は異常なほど高い・しかしそれは実力のあるエンジニアの需要
IT業界のエンジニア需要は、何年も圧倒的に不足している状況が続いています。
どれくらい不足しているかというと有効求人倍率7倍を超える勢い。コロナの影響で倍率は少し下がったものの、それでも2020年5月で5.84倍という高い水位を維持しています。
参考:https://doda.jp/guide/kyujin_bairitsu/
有効求人倍率とは有効求職者数に対する有効求人数の割合で、厚生労働省が全国のハローワークの求職者数、求人数をもとに算出して毎月発表。有効求人数を有効求職者数で割って算出し、倍率が1を上回れば人を探している企業が多く、下回れば仕事を探している人が多いことを示します。
単純に有効求人倍率が5.8倍なのであれば、1人のエンジニアに対して平均5.8社からのオファーがあるという計算で考えて良いです。
この倍率だけを見たら、未経験エンジニアでも仕事につけるチャンスが高いのではと感じてしまいますが、実際に企業が欲しがっているのは即戦力エンジニアであり、けして未経験のエンジニアを採用したい訳ではありません。
しかし、即戦力のエンジニアが市場に出回らないため、有効求人倍率が高くなってしまっているという状態なのです。
需要に応えるために各企業は未経験エンジニアを採用し育てているのが実情
即戦力のエンジニアを採用することが本当に難しい時代です。しかし対応していかなければならないIT課題は山積みで、エンジニアを採用できないからといって放置し続けるわけにもいきません。
その為に、各企業はあえて未経験のエンジニア志望の方を採用し、自社で教育をおこないエンジニアとして育てているといった状況なのです。
最近のIT企業の求人広告が業界未経験者にクローズアップし、教育を徹底的にアピールする企業が多いのはそのためです。
未経験案件があれば自社正社員を優先して配属するためフリーランスは後回し
将来への投資観点もあって、各企業は未経験者を積極的に採用していますが、実際のところ未経験者にお願いできる仕事というのは多くありません。
企業によって様々ですが入社して1〜3ヶ月の研修を積んだエンジニアはそれぞれの現場に配属されていきます。
「え?数ヶ月の教育だけで現場に出されてしまうの?」
と不安になるかもしれませんが、教育教育とアピールしてても企業は学校ではありません。最低賃金ベースのお給料でも毎月28万円程度のコストはかかってしまいますし、ボーナスを考慮したらそれ以上の回収をしなければ赤字になってしまいます。
そのため、数ヶ月の社内研修を行った後は現場に配属される(配属先の顧客からお金をもらう)のですが、具体的にどのような案件に配属されるかというと、
仮に10人の未経験者を採用した場合、
- 2人は先輩社員のいる技術的成長要素の高い現場に配属
研修期間で判断し、会社として育てたい優秀なエンジニアが配属 - 3人は先輩社員のいる業務難易度はさほど高くない現場に配属
研修期間で判断し、一人で現場配属させるには不安を感じるエンジニアが配属 - 5人は先輩がいない案件に配属
研修期間で判断し、1人で配属させてもなんとかやっていけそうなエンジニアが配属される
このような感じになるでしょう。場合によっては全員が一人現場というケースもあります。
さて、未経験エンジニアのエージェントと顧客間での契約単価は安く、40〜50万前後で契約出来たら御の字です。中には手弁当といって最初の数ヶ月は0円に近い金額で契約するケースもありますし、30万円しかもらえないケースもあります。
未経験エンジニアを現場配属させるための営業って本当に難しいです。
客側の意見は、
うちの会社にとって何のメリットがあるの?
ごもっともな意見です。
自社できちんと請けている案件であれば、案件を請ける当初から新人をアサインする予算を確保しておいて、自社体制の中に新人をアサインすることはできます。
また、先輩エンジニアがいる現場であれば、その先輩エンジニアを交渉材料に新人を一人付けさせてもらう営業も交渉次第でしょう。
しかし、そういった関係性を元に新人を入れさせてもらえる案件数は各社限りがあり、それ以外は一人配属の営業をせざるえません。
「技術的な経験の積める案件にしかアサインしない」と、コンセプトを持って営業してくれる会社であれば良いですが、ほとんどの会社では、
という考えの中で、お客様に「なんでもしますから」と頭を下げて営業しているのが実情です。
当然ですが、そういった営業スタイルの中で未経験エンジニアがアサインされる案件は、インフラであれば、運用一次監視・オペレーター・キッティングなどスキルがなくとも多少のOJTとマニュアルがあれば対応できる案件、開発エンジニアであればテスターなど人手をかき集めたい業務などに配属させざるを得ないのです。
何が言いたいのかというと、
常駐型エンジニア業界でトラブル率が高いのが未経験エンジニア・夢に描いていたエンジニア生活と実際のエンジニア生活のギャップ
このように会社側が必死に営業して探してきた案件であっても、新人エンジニアの考えは別にあります。
技術者になることを夢見てエンジニア業界に就職された方達です。
また研修においてもサーバ・ネットワークなどのインフラ研修、Javaなどの開発研修など実務に近い研修を積んで現場配属になる訳ですから、現場に配属後、全く技術とは程遠い業務が中心になったら面を喰らうことは間違いありません。
どれくらい程遠いかって?インフラ業界を例に挙げると、
- 運用一次監視案件であれば、システムの障害連絡が入ったら、対応可能な技術者に電話を取り次ぐのが業務です。それ以外はやっちゃダメです。
- オペレーターであれば、何かイベントが発生したら、OSの再起動などマニュアルに沿ってボタンを押したりコマンドを入力するのが業務です。監視取次よりも少し良いかもしれませんね。
- キッティング案件であれば、暖房や冷房があまり効かない劣悪な環境の中で、毎日段ボールに機材を詰めたり出したりしているかもしれません。テプラでラベルを貼り続けることも多いでしょう。
このような業務を、会社からは1年・2年と長期で続けなさいと言ってきます。長く続けなさいというのにも理由があって、
- ITエンジニアの実は、想像以上に泥臭い作業の繰り返しなので、そうった泥臭い業務にも耐えうることの出来るエンジニアを目指して欲しい
- 次のステップ案件に進もうとしても、ある程度の期間、同じ現場で耐えられない方は嫌なことがあるとすぐに辞めてしまう人物とも判断される
- 将来設計・構築を担当する側のエンジニアになった際に、運用オペレーターの業務や気持ちを理解できなければ良いシステムを設計できない
会社側の言い分も一理ありますが、実際にエンジニアとして働くことを夢見ていた方の多くが数ヶ月で嫌になってしまいます。
こんなはずではなかったというミスマッチが起きて、現場入場から数ヶ月で会社を辞めてしまう方が跡を立たないのです。
悩んだときに先輩や会社に助けてもらえるのは正社員・フリーランスは助けてもらえない
さて、このような夢と現実のミスマッチが起きたときに助けてくれるのは先輩正社員です。
自分も同じような経験を積んで今の技術者に成長することがきた。
オペレーター期間はとにかく資格取得することに専念して、次の現場では絶対に構築案件に入れる実力を身につけた。
など、先輩のアドバイスがあってこそ、辛い期間を耐えられます。
しかし、辛いとき、悩んだときに助けてもらえる先輩や仲間のいないフリーランスの場合は、もし仮に契約ができて現場にアサインされたとしても、現実とのギャップが埋められず去っていってしまうケースが非常に多いのです。
まとめ
改めて未経験でフリーランスエンジニアになれるかどうかをまとめます。
IT業界全体で未経験者が溢れているので、紹介してもらえる案件が少ないです。また、IT業界はイメージと実際の業務のギャップが高い業界であり、そのギャップを理解していない未経験者に仕事を紹介するのはエージェントにとってもリスクでしかありません。
今回お話ししたことが全てではありませんが、未経験でフリーランスに挑戦するのは本当にお勧めできません。
まずはIT会社に就職して、営業さんや先輩エンジニアのサポートのある中で実績を積み、エンジニア業務がどんなものかを理解した上でフリーランスを目指すことをお勧めします。